コラム

言語聴覚士のやりがいは?


言語聴覚実習風景

仕事のやりがいは?

言語聴覚士は、より人間らしく生きるために必要な「コミュニケーション」と「食べること」に困難を抱えた患者さんを直接サポートする専門職です。

患者さんに直接かかわるからこそ、「患者さんの回復をともに喜ぶことができる」ことにやりがいを感じます。たとえば、脳卒中で飲み込みの力が低下し、食べられなくなった患者さんが、日々の訓練によって食べられるようになったときの喜びはことばになりません。

また、食べる力が弱い患者さんは、意識レベルが低下していたり、会話が難しかったりすることも多いです。しかし、一口でも食べられるようになり、食べる力が安定してくれば、ご家族が食べさせることを通じ患者さんとコミュニケーションがとれるようになり、患者さんの発音も明瞭になってきます。このような食べることとコミュニケーション、発音の関係性を理解しているからこそ、患者さんの回復の芽をみつけ訓練にいかすことができる「専門性の高さ」にもやりがいを感じます。

 

大変だと感じるとき

コミュニケーションの問題は、骨折などとは違い、目に見えず周囲から理解されにくい障害といえます。例えば、松葉づえをついている人が満員電車の中で立っていたら、席を譲ってくれる人もいるかもしれません。しかし、コミュニケーション障害の一つである失語症では、「ラーメンが食べたい」と言おうと思っても、「うどんが食べたい」と思いとは違ったことを言ってしまったりします。このような問題は、目に見えにくく、また、たとえ障害に気がついたとしても、どのように助けたら良いかがわかり難いです。こういったことが原因で誤解を招き、家庭や社会から孤立してしまう失語症の方も多いです。

そして、失語症の回復には時間がかかり、また完全に回復することは多くありません。そんな患者さんたちは、苛立ちや悲壮感といった自分ではどうにもならない感情を抱えながら、少しでも良くなろうと奮起し、リハビリテーションに参加されています。しかし、ときには頭では必要だと分かっていても気持ちが向かず、リハビリテーションを拒否される患者さんもいらっしゃいます。そんなとき、どんな態度で患者さんに接し、どのようなことばをかけたら良いのかを悩むことが多いです。

 

学生時代に頑張ったこと

私の母校は4年制の学校で時間がたっぷりとありましたので、1年生の時からブレイン・ファンクションゼミという脳の機能について学ぶゼミに所属し、脳の働きについて先生や仲間たちとディスカッションを重ねました。

そんな中で「こころを生みだす脳の仕組み」に興味をもち、いろいろな本や学術誌を読むようになりました。先生はいつも「脳の研究はこれからです。脳の仕組みは分かっていないことが多いです。だからこそ脳の可能性、患者さんが良くなる可能性は無限大にあるんです」と穏やかに、そして、情感込めて語ってくれました。また、私が先生に疑問をぶつけると、解決のヒントを出したうえで「でも、それを解決するのはあなたです。あなたならどう考えますか?」と問いを発し続けてくれました。

言語聴覚士の専門性は、患者さんの症状に疑問を持ち、解決の糸口をみつけ、適切な訓練を行うところにあります。このゼミでの「疑問を持ち続けなさい」との恩師のことばが、言語聴覚士として患者さんと向き合うための基本的な姿勢を作ってくれたと思っています。

 

これからの夢や目標

1997年に言語聴覚士法が制定され、1999年に第1回国家試験が実施されてから、有資格者数は徐々に増加し、2019年現在では、約3.3万人の言語聴覚士が活躍しています。他方、コミュニケーション障害者の総数は、1,646万人(音声言語障害 346万人、聴覚障害1,300 万人)と推定されています。また、コミュニケーション障害者との重複があるものの、嚥下障害者の数は80万人と言われています。さらにコミュニケーション障害や嚥下障害の原因にもなる認知症は、2025年には約700万人にも上ると想定されています。

これらのデータから分かることは、コミュニケーションや食べることに困難さを抱えている患者さんに対し、言語聴覚士の数が圧倒的に不足しているということです。したがって、これから言語聴覚士は、病院や施設で働くことにとどまらず、地域に出て「介護予防教室」や「健康増進教室」などに活躍の場を広げ、ひとりでも多くの方が住み慣れた町で元気に暮らし続けられるようサポートすることにあると思います。

多摩リハビリテーション学院専門学校で教員をしている私の目標は、学生たちが患者さんや社会が抱える課題と向き合い、言語聴覚士としてできることを見出だせるような授業を提供することです。そして卒業生たちが、言語聴覚士の専門性を生かし、地域で活躍している姿をみることが私の夢です。

 




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